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響きのいいすてきな名前はペンネーム二宮磬――作家のようなこのお名前、実はペンネームだ。二宮さんが現役編集者時代、お仕事でご一緒していた稲葉明雄さんがつけてくださった。 「路線地図をながめましてね、東京から西の方をずっと見ていったんです。出身が静岡なので、その手前あたりがいいかなと。それで「二宮」にしました。「磬」、これは辞典をひきましたよ。漢和辞典をひきながら、なるべく画数の多い文字を選んだんです。名字の二宮が画数少ないんでね」 会社勤めをしていたので、本名で出すよりペンネームの方がいいだろうと名前がつくられた。かくして、翻訳者、二宮磬が誕生し、1年に1冊から2冊のペースで、コンスタントに訳書が出ている。 早川書房での編集者時代大学を卒業後、早川書房に入社する。早川書房が新卒採用を本格的にはじめた年で、二宮さんはその一期目に入ったことになる。はじめは新書版SFシリーズの編集を担当していたが、その後、雑誌「SFマガジン」にたずさわることになった。米国のSFとファンタジーの専門誌との提携でスタートした「SFマガジン」は、日本におけるSF黄金時代を演出した雑誌だ。その初代編集長、福島正実氏と次の森優(南山宏)編集長のもとで2年3か月、SF担当として過ごした。 法学部出身の二宮さんだが、最初から編集者をめざしていたのだろうか。 「いやいや、本は好きでしたけれどね。大学を出るときにはジャーナリズムの方向に進みたいと思って新聞社など何社か受けたんですが、どれもだめで、結局、早川書房に受かったんですよ。それで入ったということです。実はそれまで早川書房の本をあまり読んでいなかったので、急いでまとめ読みしました(笑)」 早川書房では編集者として『SFマガジン』のほか、【世界SF全集】などを担当した。順風満帆に編集のキャリアを積んでいた二宮さんに最初の転機がおとずれる。 「会社で組合をつくることになったんですが、そこに加わったことでいろいろありまして。辞めなくてもよかったんだろうけど、まぁいいかと、結局辞めてしまいました」 二宮さんはいたっておだやかに、仕事を辞めたことも、転職したことも、淡々と話される。自分の生きていく道がそこにあるなら、そこを歩くまでというように、自然体の方であるという印象を受けた。 角川書店での編集者時代早川書房を辞めた後、編集プロダクションで2年ほど働き、集英社の系列会社に移る。28歳の12月に2度目の転機――角川春樹氏との出会いがあり、角川書店に入社。「翻訳書の編集ができる人材がほしい」と請われて入った角川書店で15年間、編集者として仕事をした。その間にたくさんの原稿を読み、結果的にいま翻訳家としての仕事をしていくうえで、大いに勉強になったという。学校に通ったり誰かに教わったりということはなかったが、翻訳者の生の原稿を読むこと、下訳をしてきたことが何よりも学ぶ機会となって、今の翻訳者としての自分があるというのだ。 最初の訳書がでたのは、この角川書店の編集者をしていた時だ。稲葉明雄氏の下訳として訳した作品を、「これは君の名前で出したら」と後押ししてもらったという。デビュー作品となった訳書『敵の選択』(集英社)がそれだ。 そして翻訳一本の道にその後15年勤めた角川書店を辞め、翻訳一本の生活にはいる。編集のかたわらに訳書を出していくうちに、いつかは翻訳一本の道をと、漠然と考えていたというが、その時期をいつと決めていたわけではない。「そろそろできるかな」と思えるようになったのが、デビュー作が出てから10年後、44歳の時だ。資料や辞書は編集者時代に少しずつ集め、その後は依頼のあったものを訳していった。下訳はいっさい頼まずにすべてひとりで訳している。 「一日の仕事のパターンは、夏だと朝5時から6時の間に起床、それからクーと散歩。午前中は仕事をして、夕方には仕事をきりあげるようにしていますね。夜は飲んでしまうので、仕事にはなりません」 クーちゃんは二宮家の愛犬である。雑種犬(最近はミックスと呼ばれている)が大好きな二宮さんが、こだわって飼っている白の美犬だ。 趣味はゴルフと金魚翻訳で、ひとりきりで仕事をするようになってから長いようだが、息抜きにはどんなことをしているのだろう。 「ゴルフですね。編集者だった時に作家の文壇ゴルフのお手伝いしたことがきっかけです。結局、実現しなかったんですが、編集会議をゴルフ場でするぞなんて角川春樹氏に言われたりして、それなら練習しようと、編集部でもりあがったんです。あわてて、クラブを人からもらって手に入れて練習したりしました。それからコンペをするようになり、途中から入れてもらった仲間うちでの毎月1回のコンペは350回ほど続いているんですよ」 350回! 夏に休んで年11回というコンペを、30年以上続けてきたという計算だ。いつのまにかメンバーも入れ替わり、残念なことにお別れすることになってしまった方もいるが、それでも今も人とのつながりで続いているそうだ。いま現在は、翻訳者の参加は意外に少ないらしい。 「金魚も長く飼ってますよ。全部、卵からかえったんです」 お話をうかがった居間の隣には、りゅうきんが優雅に泳いでいる水槽があった。素人から見れば単純にかわいらしい姿だが、卵からかえすことで尾のたれ方などがまちまちな個体が多いことに気づき、店で売っているものがいかに選別されているかわかったという。 時々、聞こえるゴロン、ゴロンという音で他にも何か生き物がいる様子だ。 「それは、カメです。娘が置いていきましてね。世話したくないんですが、しかたなく」 二人の愛娘は成長してすでに家を出ていて、いまは奥様とペットたち、そして隣に住むお母さまとの生活だ。カメについては苦笑まじりにお話されたが、心優しい二宮さんが、愛犬クーちゃん、金魚、カメと等しく愛情を注いでいる様子が伝わってきた。 おおよそ1年くらい先までは仕事が入っているという二宮さん。 「1年に2冊くらいのペースでこれからも仕事をしていきますよ。いつ引退しようかなぁとも思うんですけどね」 今年還暦を迎えたとはいえ、いい訳者を編集者が手放すわけがない。これからも安定したペースで仕事をしていってほしい。そして、その本の世界にふれられることが何よりも楽しみだ。
インタビュアー:林さかな(2005年) |